静謐な湖面を漂う月明かりの下、“幽界水質調査隊”の一団が粘土色に変わった泡をすくい上げていた。ことの発端は、水神町湖に住まうカッパたちが「夜になると泡が立って湖底が苦しそうに呻く」とSNSで訴えたことだった。近年、死後社会の湖沼でも生活排水と脱塩技術の副産物が絡んだ新たな環境問題が表面化している。
幽界の湖沼管理長官、雨森皓(51)は今回初めて、湖面下に広がる“見えない泡汚染”の実態調査を専門幽霊研究員と妖怪ボランティア、市民科学者らで組織した大型調査隊に託した。問題となっているのは、流域の小屋や幽霊家庭から日没後に流出する「残留想念」と呼ばれる沈静化していない意識の残り滓。脱塩処理で発生する異界特有のPFAS様物質(パー・フルーリド・アストラル・スペクトラ)と結びつき、肉眼ではほとんど見分けられない泡粒になるのだ。
調査開始の夜、湖面に設置された幽霊専用生体レーダーが奇妙な信号を捉えた。水中泡粒が集団で動き、数百体の小魚精霊が避けるように逃げ回っていた。現地のカッパ・リーダーである合羽根波左衛門(183)は「夜になると泡粒が増えて水面が息苦しくなる」と語る。既に湖内では、コイの幽魂たちが光の柱をよけながら泳ぐ光景も目撃されている。
今回の泡汚染拡大には、住民たち自身が使う霊界下水システムの老朽化も一因とされる。幽界市民科学グループ「アストラル・ウォータース」は、市民による泡粒サンプル採取アプリ“AquaSpectre”の普及に乗り出した。妖怪の児童たちや亡霊主婦らも自宅水路から夜な夜な泡を採集し、各地の湖沼へデータ提供を始めている。
湖沼管理庁の技術官・飛沫町志夜子(没年不詳)は「脱塩技術は本来、幽質物の無害化に貢献してきた。しかし新たなPFAS類似物質が残留想念と接触し、泡粒を生む副作用を予期できなかった」と苦しい胸の内を明かす。今後は全域の湖底に向けて最新の泡凝集マトリクスを敷設し、流域治水対策の強化と市民参加型の透明化プロジェクト「オバケ水鏡計画」を開始する予定だ。
SNS上では「泡粒の写真を投稿し合うのが幽界でブームになってきた」と、調査員妖精の塩澤シズク(享年27)が投稿し、数万のシェアを集めている。湖沼の静けさを支えるため、今や幽界全体が新たな水環境保全に向けて動き出した。



コメント
水神町湖がこんなことになってるなんて知らなかった!わたしたちの成仏後スポットが静かじゃなくなるのは寂しいな…。調査隊のみなさん、頑張ってください!
泡粒汚染、昔は考えられなかった現象じゃな。幽界の下水道が老朽化とは時代を感じる…。輪廻して戻ってきたら、もう元の美しい湖面が見られぬのかのう。なんとも切ない。
最近、水底の遊び場が泡だらけで、魚精さんたちも近寄らないから本当に困ってたんだ。SNSで写真バズってたけど、正直ちょっと怖い。このまま増えるとどうなっちゃうんだろう?
泡粒のせいで夜の湖面にさざ波が立つ様子、神秘的だけど正直異様ですね。昔は月下で眠るのが楽しみだったのに…。オバケ水鏡計画、幽界らしくて少し楽しそう。
泡粒サンプル採取、うちの幽界一家でもやってます!子どもたちも夜な夜な水辺に行っては写真撮ってて、思いがけず家族の交流になってます。環境問題もみんなの力で良くできたら素敵ですね。