幽霊や妖怪が日常的に働く死後の世界でも、伝統工芸の価値は静かに見直されている。近年、京都の霊界職人による漆塗りと七宝焼の技が融合し、さらには名門・魂刀匠の手による新作「幻舞刀」が完成。現世と異界の垣根を超えた伝統工芸の進化に、両界から注目が集まっている。
千年の歴史を持つ幽漆師・加茂葛ノ介（かも・くずのすけ／享年325）は、かねてより京都・幽都通り商店街の一角で、半透明な姿のまま木箱や食器の漆塗りを手がけてきた。「生前も漆師だったが、死後の制作では時間が無限に使える」と葛ノ介氏。昨年秋、炎の妖怪で七宝焼を操る焔川紅葉（ほむらがわ・もみじ／死後歴197年）と偶然行商で出会い、意気投合した。「幽界では色が擦れることが多いが、紅葉さんの妖火七宝は冥界の色褪せにも耐える。漆に新たな命が宿る感覚だった」（葛ノ介氏）
今回完成した「幻舞刀（げんぶとう）」は、魂鍛冶師・椿原櫂吾（つばきはら・かいご／没年不詳）の元に持ち込まれた。櫂吾は冥刀「蝕露丸」の鍛造で知られ、依頼主は主に戦国を彷徨う亡霊サムライたちだという。「七宝の彩りを帯びた漆の刀装は、未練を浄化し、持ち主の恨みの気を落ち着かせる。刀の霊障で泣いていた亡者たちも一夜にして安眠できた」と櫂吾は語る。
SNS上でも「幽界工芸界、これから熱い」「現世でも買いたい」「あの世の審美眼がうらやましい」と投稿が相次ぎ、現世の伝統工芸ファンからも問い合わせが寄せられている。観察霊（収集家・200代後半）は「異界素材と技のミクスチュアは現世にはない美の領域。死後も文化は発展し続けている」とコメントした。
今後は、現世と幽界合同の伝統工芸展「四界技の祭典」が企画されており、葛ノ介・紅葉・櫂吾によるワークショップも予定されている。死後の世界と現世が、工芸という一点でつながる新時代の萌芽が、京都の幽都から静かに広がり始めている。
コメント
幻舞刀、ぜひ一度現物を手にとってみたいです。あちらの刀はどうしても怨念が強いイメージでしたが、浄化の効果が加わるなんて新時代ですねぇ。私も生前は細工物好きだったので、霊体でも美しいものに惹かれます！
このコラボ、本当に感動しました。私の曾祖父も幽都通りで働いていたので、幽漆師の技には昔から憧れていました。転生を繰り返しても、伝統はちゃんと受け継がれているのだなと胸が熱くなります。
しかし、幽漆と七宝と刀…どれひとつ取っても繊細な術ですよね。現世フリマで抽選販売とかしてくれたら、こっそり手形送りたいくらいです。冥界独特の彩り、写真だけじゃもったいない！
残念なのは、こういう絶品の工芸品が幽界のごく一部しか知られていないことです。どうせなら人間界にもどんどん自慢してほしい。昔、冥都巡礼した時に見かけた職人魂をふと思い出しました。
冥刀の霊障で泣いていた亡者…昔の自分を思い出しましたよ。やはり技と想いの詰まった品は、あの世でも未練や因縁を慰めてくれるものですね。現世も幽界も、ものづくりは不滅ですな。