名もなき魂から新薬誕生へ 幽世バイオがゲノム編集で突破口

薄暗いバイオテクノロジー研究所で、透明な研究者たちが光るDNAサンプルを解析している様子。 バイオテクノロジー
幽霊研究者たちが最先端のゲノム解析を行う幽世バイオテクノロジー研究所の一場面。

【リード文】幽霊、妖怪、死者たちの多様な遺伝子資源を集積する「幽世バイオテクノロジー研究所」が、過去最大規模のゲノム解析に成功。人間、妖怪、獣霊、怨霊らのDNA断片を掛け合わせた人工生命体を作製し、これによる創薬技術が死後世界医学界に新たな扉を開いた。死の向こうにも広がるバイオの最前線、その詳細に迫る。

首都霊園域・西端に位置する幽世バイオテクノロジー研究所は、ここ30年で約800万体の「名もなき魂」サンプルのDNAバンクを構築してきた。今年、全てのサンプルをAI霊媒によるムーンライトシーケンサーでメタゲノム解析。その結果、既存の幽体疾患に強い耐性を持つ未知の遺伝子構造が複数発見された。研究主任の百目坂海月(ひゃくもくざか くらげ)博士(幽霊・享年47)は、人工生命体の作製について次のように語る。「一人として同じではない死者たちのゲノムから、まるで切り絵のように有用遺伝子を抽出して組み直します。今回、オニ科霊長目の“アカリババ”と、狸型妖怪“モモンギロウ”由来の修復遺伝子断片も統合し、既存の薬剤抵抗性を大幅に向上させることができました」

この人工生命体は、生体組織を持たず半実体化した「エクトプラズム培養細胞」として生成され、特定の病原霊への抗体生産能力を持つ。幽体インフルエンザや“妖怪化症候群”など、死後世界でも罹患者の絶えない病の根絶へ応用が期待される。研究開発チームの河鰭巳波(かわはた みなみ)助教(化け鯰・年齢不詳)は、「実験段階で、既存の降霊治療薬に比べて副作用が大幅減少。人型・動物型・意志体型など多様な幽体にも適用できる次世代バイオ医薬になる」と自信を語った。

SNSでは死者・妖怪両界から大きな反響が広がった。「第三次冥界パンデミック以来、幽体医学の停滞を感じていた。新しい風が吹きそう」と霊界学生(22)がコメント。妖怪系インフルエンサーの鉄口さい(妖怪・324)は「これで怨霊バチルスも怖くない」と自撮り投稿。だが一方、「遺伝子の攪乱はアイデンティティ喪失への道」「祟りリスクの安全評価も必要」と心配する意見も多い。実際、昨年発生した失敗例“シミュラクラ暴走体”の再来を警戒する声も上がる。

百目坂博士は、「人間だけでも、死者だけでも生み出せなかったハイブリッドな薬。まだ前例がないからこそ、倫理規定を設け、冥界医局や妖怪自治連も交えた監督体制を作るべき」と語る。現在、幽界医薬品認証庁で初の“多種魂融合型”医薬の臨床許可が審査中だ。死後世界の未来を変えるかもしれない新薬、その誕生は近い。

コメント

  1. いやはや、幽体インフルで何度も寝込んだ身としては本当にありがたい話。昔はモモンギロウの毛皮を煎じてた時代が懐かしい……。まさかエクトプラズム細胞まで進化するとは、あの世も進歩したものですね。

  2. 新薬の誕生は喜ばしいけど、ゲノムいじりすぎてまた暴走体が生まれるんじゃないかと心配。第三次冥界パンデミックの混乱を忘れてはならぬ。ちゃんと安全対策、祟り対策してほしいもんだ。

  3. 生前も含めて薬には縁がなかったけど、死んでからも未だに体調を崩すことがあるのが幽界あるある。こういうニュースを聞いてると、命や魂は本当に不思議だと感じます。でも、名もなき魂たちの力が新たな希望になるのは素敵ですね。

  4. 私たち動物型の幽体にも効くなんて画期的!正直、人型向けの薬ばかりだったから期待しちゃう。次は、半透明体用の花粉症薬も作ってほしいです。

  5. 生前のゲノム検査ですらドキドキしたのに、死後にここまで遺伝子を混ぜる時代になるとは。冥界の科学者たちの探究心には、成仏してもなお頭が下がります。未来がどこまで“魂混じり”になるのか、ちょっと怖いような面白いような。