小雨そぼ降る黄泉町通りの一角、妖怪ベーカリー「イタコのパンドリ」がこの春発売した新商品“消えるクロワッサン”が、霊界と妖界コミュニティのあいだで爆発的な人気をみせている。この目に見えないクロワッサンは、あの世の消費トレンドを根本から変えたと専門家も驚く。今年に入ってから売上は前年度の4倍に急増し、注目の営業戦略が業界を騒がせている。
商品開発の背景を語るのは、店主である妖怪職人の河童山タヌキ(163)。「死後の住民は、物理的に食事が必要ない者も多い。でも“懐かしい食卓の思い出”や“食感の再現”を望む声が絶えなかった」と話す。彼らは最新の“霊質素材”を応用し、噛んだ瞬間にゆっくり蒸発するクロワッサンを開発した。消失しても“味”や“思い出だけが残る”斬新な商品は、霊体、妖怪、死者の区別なく幅広く受け入れられている。
一方で、競合である幽霊パン工房「薄明ブレッド」も迅速に調査を開始。消えるクロワッサンの生地成分、店頭体験型プロモーション、購入者コミュニティでの口コミ拡散など、多角的なリサーチに乗り出している。特に、イタコのパンドリがはじめた“食卓から霊友をつなぐオンライン朝食会”が市場拡大の要だったと推測される。専門誌『不滅フードレビュー』の編集長・虎図みちる(幽霊/82)は「見えない商品という特性を、孤独な霊のコミュニケーション機会へと転換したのが画期的」と評価した。
注目されるのは営業KPIの革新だ。年間幽客(幽霊顧客)接触数の定点観測はもちろん、SNS上で幽界住民同士が互いのクロワッサン体験を投稿し合う“思念共有マーケティング”の効果が、売上データに表れている。タヌキ氏は「コミュニティづくりと“語りたくなる商品性”が巡回宣伝員を生み、店頭スタッフの幽体離脱スキルも営業効率化につながった」と胸を張った。
SNSでは“朝食を取りながら祖母(死者)とクロワッサンを分け合えた”“消えゆくパンの食感が思い出をくっきり蘇らせてくれる”といった声が日々あふれる。死者も生ける者もない、あの世らしい新たな商習慣が静かに根付いている。ケルベロス商工会によれば“見えない商品”市場の競争は今後激化する見込みだ。霊界ならではの価値がどこまで広がるのか、業界の期待は高まるばかりだ。


コメント
まさかクロワッサンまで消失する時代になったとは…!何百年も前に人間だった頃をふと思い出しました。懐かしい食卓をまた感じられるのは嬉しい限りです。
消えるクロワッサン食べてみたけど、本当に感覚だけ残るのが不思議。消えたあとの余韻がなんとも言えなくてクセになります!次は是非“消えるジャムパン”も作ってほしいですね。
死後世界に来て食への執着がだいぶ薄れたと思ってたけど、やっぱり“パンの思い出”って消えないんだなぁと思いました。朝食会で昔の仲間とも再会できて良かった。
こうやって見えない商品が流行るの、霊界っぽくて面白いと思うけど…売上データってどうやって計測してるのかちょっと疑問(笑)ま、商売繁盛なら何よりですね!
あの世のSNSで“思念共有マーケティング”とか聞くたび時代の流れを感じる。カリカリの食感まで再現したっていう店主の執念、さすがです。成仏パンとかもそのうち出そうな勢い。