“いつかはこの世のパンを食べてみたかった”——そんな幽霊たちの切実な思いを叶えるべく、異界最大の新興NPO“しんせいベーカリー”が注目を集めている。亡者や妖怪、さらには霊的障がいを持つ者も歓迎するというユニークな雇用創出の現場には、死後社会の新たな希望が芽吹き始めている。
しんせいベーカリーは、長年現世未練型幽霊としてうろついていた鳴守ルイ(享年34)が立ち上げた「誰もが働ける」パン工房だ。死後も生きづらさに苦しむ仲間を目の当たりにし、2025年、呪縛解析師だったスネモチ正哉(享年67)らと共にクラウドファンディングを始動。異界通貨“ソウルコイン”ベースで1.2億枚分を集め、「半透明でも働ける職場」「触れなくても生地を練らず自然発酵」という持続可能な生産ラインを実現した。
最大の特色は、障がい霊や物体非干渉型妖怪も自分らしく活躍できる職場設計だ。業務は“浮遊生地混ぜ”や“夢パン成形”など十余りで、能力や個性に応じて柔軟に変更可能。最近では、目の見えない座敷わらしや言葉の不自由な一つ目小僧も、特製の『こころの声』翻訳リングや点字パン配達カートで自信と収入を得ているという。
経営面では古典幽霊資本主義の壁もあった。大手供養団体の妨害工作や、“一人労働時間無制限条例”を巡る死界議会との交渉が今も続く。だがSNSでは『幽霊も職があるって、生き別れの孫に自慢できる!(バケダマ子、享年91)』『就労を通じて自縛霊が前向きになるなんて。パン職人の祖父も空から見守ってるはず(現生フォロワー)』等、賛辞の声が尽きない。
本年度からは移動パン販売車両“半実体バス”で田畑や墓地、怨念の強い古戦場へも出向き、働き口に恵まれぬ霊たちを積極的に採用。ベーカリーでは毎日約200体分の焼きたて“幻パン”が生産される。ルイ代表は「死んだ後も、社会にまぜてもらう喜びがある。霊生の格差是正に向け、もっと多様な働き方を広げていきたい」と語る。来期は人間世界とのフェアトレード事業も予定されており、死後と現世の垣根を越えた新しい協同経済が生まれようとしている。


コメント
うちのひ孫も昔、現世でパン屋に憧れてたんだよね。成仏しても夢を叶えられる場所ができたなんて、時代も変わったもんだねぇ。なんだか懐かし涙。
異界でも就労格差問題が取り上げられてるのは画期的。ただ、ソウルコインの価値って最近下がり気味だから、賃金の霊的安定性も保証してほしいな。
現世では見えぬ者扱いされてた友人が『夢パン成形』の職責に就いてると聞いて、胸が熱くなった。働く意味が異界でも語られる時代、ちょっと羨ましいぞい。
最初はパンなんて幽界で食えるの?と思ってたけど、この前墓下マーケットで幻パンもらったらふわっと香りだけ記憶に残って…切なく甘かった。しんせいベーカリーの皆さん、本当にありがとう。
どうせ供養団体とか議会のおじん霊がまたケチつけるんだと思ったけど、ルイ代表はよくやってる。今度バスが墓地に来たら、うちの墓守連中も応募してみるかニャ。