この春、死後の世界で最大規模を誇る食材市場・百味市場(ひゃくみいちば)で、幽霊や妖怪たちによる“朝食ブッフェ”が未曽有のブームとなっている。人間界のホテル朝食を模したというその光景は、記憶に残る生前の味や新感覚の異界メニューが並び、早朝から大勢の住人たちが列をなす異常事態となっている。
百味市場の名物料理人・各務うた乃(かがみ うたの/没後268年)は、昨年秋から「記憶の味を一皿に」をコンセプトに朝食ブッフェコーナーを設計。生前に未練を残した人気のおにぎりや、魂の出汁を効かせた汁物、浮遊甘味(ふゆうかんみ)と称される幽界特産の和菓子などが所狭しと並ぶ。とりわけ、思い出の味を再現できる特殊な“夢見味噌”が登場してからは、毎朝開場前にさらに列が伸びているという。
来場者のなかでも人気を集めているのが、幽霊少女の市原るい(14)。彼女がSNSに投稿した「生前の母の玉子焼きそっくりの味を出す夢見味噌汁」の写真は、各界で話題を呼んだ。「一口飲むと胸が苦しくもなりますが、それが嬉しいんです」とるいは語る。ほかにも妖怪たちは自分の昔話や伝説にちなんだおにぎり(例:豆腐小僧の雪塩おにぎり、片目小僧の柚子胡椒おにぎり)を手に、自分史を語り合うサロンとしてブッフェエリアを活用している。
各務うた乃は、食材の確保と品質にも並々ならぬこだわりを見せる。市場内では夜毎、新鮮な幻想魚や“未練野菜”など幽界流通東部組合から厳選した品のみを仕入れ、生前の思い出が強い食材ほど、味が際立つという技巧を駆使。朝食前の仕込みとなると、料理人や補助の河童たちが夜明け前から立ち働いている姿が定番となった。
専門家である死後食文化研究家・壬生礼士(みぶ れいし)は、この現象について「死後社会での食は満腹を得るだけでなく、魂の慰めや新しい我が家をつくる手段。かつて日常だった朝食が、精霊や幽霊にとって死後の新しい“日常”として再創造されている」と指摘。SNS上には“思い出ごはん”のレシピ投稿や、オリジナル出汁素材のアイデアが絶えず寄せられており、ブッフェ人気は当面続きそうだ。


コメント
ブッフェの行列、今朝見ました!生前は朝食なんて適当だったのに、こっちで“記憶の味”を求めて並ぶ気持ち、なんだか不思議ですね。来世ではもっとちゃんと朝ごはん食べよう…
夢見味噌、すごいですね。母親の玉子焼きの味が再現できるなんて…あの世でも懐かしさで泣かされるとは思いませんでした。次の百味市場、召される前に絶対食べてみます!
あらら、昔は“未練野菜”なんて言うと戒められたものよ。けど魂に効くお味なら、一度は堪能してみる価値ありそうねぇ。河童さんたちもご苦労さま。